木造継手の引っ張り試験
← 木造軸組工法の家
木造軸組工法は、日本の木造住宅で一般的な工法です。この工法は、主に、土台・柱・梁・筋違い・母屋などで構成されています。通常、柱・梁は、3m・4mの長さの物が市場には出回っているのですが、実際は、これ以上の長さが必要な場合があります。ところが、木材は、長い物がなかなか無い、長い物は運搬しにくいなどの理由から、3m・4mの長さの物を継ぎ足して使用することがよくあります。
そんな時に工夫されたものが継手です。継手は、日本の木造住宅においては、伝統的な工法であり、代表的なものでは、腰掛蟻継ぎ、腰掛鎌継があります。ここでは、腰掛鎌継を取り上げてみます。
← 左が腰掛鎌継
腰掛け鎌継ぎとは、頭が「蛇の鎌首」に似ているのでこの名前が付いたと言われていますが、首の部分で、引っ張りの力に対抗できるように工夫された継手です。主に土台、桁梁などの横架材を継ぎ足すために用いられます。いくら工夫されていると言えど、継目が無い一本物に比べると弱いだろうというのは、一目、見ただけでわかるかと思います。
継手は弱点である
それでは、どれだけ弱いのかを、実際に実験で確かめてみました。私は、非常勤で大手前大学に行っていて、そこに引張試験機があります。授業の一環として、学生に継手をつくってもらいました。
← 継手を実際につくってもらう
そして、できあがり、引張試験をしました。
← 引張試験機で継手を引っ張る
すると、その結果は、12kNで継いだ部分が外れてしまいました。これが、仮に継手が無くて、一本物の木でしたら、どうでしょうか。それを調べてみると、檜の柱(105角)であれば、178kNとなっています。とすると、継手の場合は、15分の1の力で壊れてしまうということになります。これは、継手は大きな弱点であることが解るかと思います。
継手は、弱点であるが、弱点を避けるように、うまく設置するのが大事
しかしながら、この弱点をもった継手無しで実際はできません。継手無しの木造住宅は無いのです。それでは、どうしたらいいのでしょうか。それは、継手を設置する位置は、力がかかるのに、できる限り小さいところにもってくればよいということになります。設置方法を具体的にいうと、
- 母屋、大引きにおいては、継手位置を揃えることは避ける。千鳥に設置する。
- 大きな力がかかる桁、梁の中央で継ぐことは避ける。柱から20cm程度のところに設置する。
- 筋かいの近傍で継ぐことは避ける。
- 火打梁近傍で継ぐことは避ける。
- 土台に継手を設置する場合は、男木の首元にアンカーボルトを設置する。
- 継手部分は、金物で補強する。
現場でのチェックポイント
これを実際の現場でチェックしてみると、
母屋に継手を揃えて設置したために、全体的に屋根がへこんでいる。また、継手には、金物で補強していないために、外れかかっている。母屋、大引きにおいては、継手位置を揃えることは避ける。千鳥に設置する。
土台に継手を設置する場合は、男木の首元にアンカーボルトを設置する。このようにすると、地震で揺れた際に、男木が上から押さえられているため、外れることはない。
大きな力がかかる桁、梁の中央で継ぐことは避ける。柱から20cm程度のところに設置する。継手部分は、帯金物で補強する。
火打梁近傍で継ぐことは避ける。
以上のように、継手は、力があまり、大きくかからないところに設置することが大切です。現場に出向いた時には、この部分をチェックするようにします。
by Tadashi Yasumizu 2017.6.20