昭和56年以前の建物は、なぜ危険?(その3)
大地震が発生した際に建物に大きな被害をもたらす要因の一つとして、劣化ということを述べましたが、その中でも漏水による劣化がどのように建物の強度・耐久性に影響を及ぼすのかを考えてみましょう。
⇐ 阪神淡路大震災により倒壊した家
地震が発生した際の劣化による被害
外壁のひび割れ、屋根材の劣化、割れ、防水の劣化などは、いずれも雨漏りの原因となります。雨漏りにより水が内部に侵入すると、程度にもよりますが、柱・梁・土台・筋違いなどの構造材が木材腐朽菌やシロアリにより腐食します。腐朽菌やシロアリにより柱・梁・土台・筋違いなどの構造材が腐食すると、構造材としての強度・耐久性が失われ、地震が発生した際には、その部分から破損、倒壊することになります。
実際のところ、阪神淡路大震災において、被害を受けた建物に,腐朽・蟻害を受けているものが多く見られました。大部分は土台が腐ってしまったものであるが,それが上部にも及んだ例もあります。中には,柱がほとんど跡形もなくなっているものも見られます。
大阪市立大学の宮野・土井氏らの調査によれば、腐朽・蟻害と建物躯体の地震被害とには有意な関係があるといいます。東灘区で709棟の住宅を調べた結果を図1、2に示しました。「蟻害を受けている家屋については、その用途に拘わらず、ほとんどが全壊になっている。一方、蟻害を受けていない家屋については、(中略)軽微被害の方が多い結果が得られた」といいます。
また、淡路島の北淡町においては、図3にその結果を示しました。有効データは263棟であったが、蟻害・腐朽ありの58棟のうち75.9%が全壊なのに対して、蟻害・腐朽なし144棟のうち全壊は38.2%でした。蟻害・腐朽の進んだ建物ほど、地震で大きな被害を受けていることが示されました。
腐朽・蟻書を受けやすい部位は、大きく三つある
腐朽・蟻書を受けている部位は、大きく三つに分けられます。第一は土台です。中には、土台が形を留めないほど、蟻害に侵されていたものもあります。この場合、柱脚は宙に浮いているような状態であったといいます。
第二はバルコニーです。床を張った2階バルコニーでは、その躯体への接合部分で腐朽を生じているものが数多く見受けられました。多雨の日本でバルコニーを設けるには、十分な注意を払う必要があります。
第三は外壁です。外壁の腐朽・蟻害には三つの原因が考えらます。まず、土台の腐朽・蟻害が徐々に上昇してきたもの。特に蟻害は、上部にも急速に伝播します。第二は外壁からの漏水です。モルタル塗り外壁では、コーナー部分などでひび割れを生じやく、そうしたところからの漏水が原因で腐朽したものもが多いのです。
いずれにしても、外壁からのひび割れからの水の浸入、劣化による屋根、ベランダかの水の浸入は、腐朽菌、シロアリによる構造材が腐食し、大地震の際には、倒壊の原因となり、命も奪われるため、早急の改善が必要です。
出展:
(1)宮野道雄・土井正「平成7年阪神・派路大震災木造住宅等震災調査報告書」「3.13 腐朽・蟻害と木造住宅の被害 その1調査」、平成7年10月、木造住宅等震災調査委員仝
(2)疋田洋子他「平成7年阪神・淡路大震災木造住宅等震災調査報告書」「3.14 腐朽・蟻害と木造住宅の被害 その2調査」、平成7年10月、木造住宅等震災調査委員合
「阪神大震災に見る 木造住宅と地震」坂本功監修 鹿島出版会
by Tadashi Yasumizu 2019.03.20