見積書の査定の仕方
見積書の査定は、通常は、設計・監理を行う設計事務所が行なう事になっています。しかしながら、設計施工を一貫して行なっている工務店に依頼した場合とか、住宅メーカーの場合であると見積書を第三者的にチェックする人がいません。
その場合、見積書が適正かどうかというのは、解りにくいところがあります。特に1式と書かれている見積書は、図面・仕様書の内容が反映されているのかどうか、解らず、後になって、トラブルの原因となります。また、悪意がなくとも、不当な単価、数量が入っていたり、項目が脱落していたりする場合もあります。
そんな時に、全くの中立な立場で第三者である建築士に、見積書を査定してもらうということは、不当に高い工事費を防ぎ、また、後になって追加精算の際のトラブルを防ぐのに有効です。
ここでは、その見積書をどのように査定するのか、そのチェックポイントをあげてみます。
見積査定のチェックポイント
仮設工事
仮設工事の査定は、各工事の中で最も難しいように思われます。というのも、仮設は現場の立地条件、規模、工期、工法、考え方により見積金額は、ガラッと変わってきます。大きな現場になればなるほど、仮設工事は複雑になり、大きな開きがでてきます。
仮設の場合、よく1式という表現がなされます。いろいろな要素が多々組み合わされて合計したものが各々の仮設の値段になるから仕方がない事なのですが、簡単に表現してあるだけに余計に解りにくくしまう。工務店から提出された仮設計画、他現場の工事費に対する仮設工事の割合、他工務店との比較、見積担当者などから内容について検討してその見積金額が妥当かどうか判断します。仮設工事は、決まった単価というのがないだけに、査定する人も現場を経験してみないと、実際にかかる費用というのは、なかなか把握できないものです。
しかしながら、足場とか、廃材処分費、電気、水道代には基準単価がありますので、延床面積にその単価を掛けて判断します。
土工事
土に関しては、相場というのがありません。現場によって、全て単価は異なります。残土処分をするのに捨て場までの距離によっても異なります。遠方まで行くのであれば、ダンプ1台が一日に運べる量は減るので、単価は上がります。
立地条件によっても異なります。大型車が入る広い現場と小型車しか入らない狭い現場であると、当然、大型車で作業できる現場の方が能率が良いために単価は下がります。
鉄筋コンクリート工事
型枠工事に関しても積算基準により拾出しをするのが原則です。これは、工務店によってそんなに差はないもので、誰が拾出しをしても、ほぼ同じにならないといけません。大きく差があるときは、明らかに計算間違いをしているか考え違いをしているかです。あとは、役物をどのように分けるかであるが、基本的には、一般と役物、例えば、打放しとアール、基礎と立上りとでは、手間がみな違うので、分けるのが普通です。よく、全て突っ込みで出してくるところもあるが、これほど、いいかげんなものはありません。
単価に関してですが、これも、その現場の条件により違いが出ます。細かい間仕切りが多々あるものとマンションのように同じものがたくさんあるもの、広い所と狭い所とでは、当然、値の違いは出ます。材料の搬出がしやすい現場とそうでない現場、便利なところと辺鄙な所、そんな条件を把握して上で査定します。
コンクリート工事に関しても積算基準により拾い出しをするのが原則ですので、そんなに違いがあってはなりません。単価に関しても、コンクリートの場合は、多くはコンクリート組合が仕切っている場合が多く、値段は統一されています。極端に安いというと組合外か、ノーJIS製品の場合もありうるので注意が必要です。
打設手間ですが、一日に打設できるコンクリート量というのは、決まっています。一つの現場における打設回数も決まっています。そのコンクリート量に対する必要な土工、左官の人数もほとんど決まっていて、あとはその職方の一日単価、業者の経費などを掛け合わすだけですので、だいたい計算できます。職工の通常の市場価格を把握しておく必要があります。
鉄筋工事に関しても、積算基準により拾出しをするのが原則ですので、そんなに違いがあってはなりません。材料は常に変動しているので、その時の市場価格を知っておく必要があります。安い時期に大量に買い占めた業者は、安く提供する事ができますが、時期をおいた鉄筋ならば、とかく雨ざらしの場合も考えられるので、その保管法にも気を配る必要があります。
木材工事
木材の値段の出し方ですが、材積(体積)により立方メートル単価が決まっていますので、まずは、立方メートル単価を知っておかなければなりません。
木材価格も常に変動してますので、市場価格を把握しておく必要があります。数量に関しては、一本拾いをしておれば、誰が積算しても、そんなに違いがでることはありません。銘木に関しては、程度物なので、査定するのは難しいです。だいたいこの程度のものならば、これくらいの材料が手に入るという相場を日頃から知っていなければなりません。
大工手間
大工手間に関して、歩掛りを知っておく必要があります。手間の歩掛りは、市販されてるものでも正確に出ていますので、それを参考にしてもよいです。生のデーターを日頃からとっておくことも大事です。工事監理の際に工務店から詳しい職人の出面を求め、それぞれの部位ごとの歩掛りをチェックしておくと、査定の際、概算見積時にも役に立ちます。
屋根・防水・石・タイル・左官・内外装・塗装・吹付工事
屋根・防水・石・タイル・左官・内外装・塗装・吹付工事などのように、材工で行う工事における単価は、通常、複合単価で入っている場合が多いです。例えば、タイルにおいては、材料代+手間+副資材(接着剤など)+運搬・経費を全て合わせて、面積に対する単価となります。メーカーのカタログに載っている価格というのは、材料の希望小売価格であり、実際の工務店が見積書に入れている単価とは、全く異なるものです。
もっと、詳しく言うならば、材料代は、メーカーの標準価格の何掛けで入るのか、手間は、タイルの種類、面積、張る場所、工法によって全て違ってきます。役物があれば、さらにその分が計上されます。運搬代は、現場の立地条件によって変わり、荷降ろしから実際に張ろうとする現場が遠かったならば、小運搬費も計上されている場合もあります。業者経費は、業者によって全て違ってきます。
鋼製建具工事
鋼製建具工事に関して、通常は、製品代、製品運搬代及び業者経費、取付け費、という構成で表現される場合が多いです。アルミサッシュに既製品を使ったならば、カタログ記載の標準価格の何%で入っているのかで査定すればよいです。そのメーカーについて、各工務店の得意、不得意がわかります。製品の運搬・経費は、製品代の何%と決めている場合が多いです。
取付け費は、開口面積に取付手間の単価を掛け合わせたもので、種類、面積、張る場所、工法によって変わってくるので、現場ごとの歩掛りを把握するようにします。
製作した鋼製建具は、製作金物と似たところがあり、やり方により、大きく変わってくるので、図面において細かく指示を出せば、正確な金額が出るので、やり方が同じという事を前提の上、比較検討します。
木製建具工事
木製建具工事に関しては、ほとんどが鋼製建具と同じ考え方とみてよいでしょう。ただ、取付け費は、1ヶ所いくらとする場合が多く、開き戸と引き違い、襖と障子とでそれぞれ値段を変えています。特注建具に関しては、やはり、やり方、材種、仕様によって、全て値段が違うので、図面において細かく指示を出して同じ土俵で比較検討するようにします。
既製品の建具を使用しているなら、メーカーの出している標準価格をチェックしなければなりません。デザイン、仕様により、全て価格が違いますので、建具リスト・仕様書と不整合がないか、十分なチェックが必要です。その標準価格の何掛けで入っているかチェックします。
建具金物は、まとめて1式○○と表現している場合が多いのですが、これでは正確な査定はできません。メーカー物を使用する場合が多いので、標準価格が決まっています。各建具金物別にそれぞれの数量と単価が入ったもので比較検討するのがよいでしょう。
硝子工事
硝子工事に関しても、ほとんどの場合、複合単価で入っている場合が多いです。ガラス代+加工・取付手間+運搬経費です。これ以外にガラスシーリングが計上されます。
ガラスの場合も種類ごとに標準価格が決まっています。種類、厚さ、大きさによって細かく分類され、それに対して何掛けで入るかです。よく解らないのが、特殊ガラス、大判ガラスです。この場合、特に定価というのがないから、その都度、メーカーが値段を決めるからです。
家具工事
家具工事に関しては、オーダーメイドの場合、仕様により大きく値段が変わってくるので、図面にその仕様を細かく指示する必要があり、同じ土俵でもって、査定するようにします。取付け費、運搬経費等は、品物に対する比率で算出する場合が多く、それぞれ項目に分類して比較検討します。
既製品の建材を使用する場合、メーカーの設定している定価の何掛けで入っているのかをチェックするようにします。その工務店は、どのメーカーのどの材料が、得意か不得意なのかがよく解ります。材料と取付け手間とは、きちんと分けて比較検討する事が査定のポイントです。
経費
経費は、全体の工事金額に対する比率で決めます。その工務店の体制により、その比率が変わってきます。例えば、大工の棟梁のような社長が一人で見積から現場監督までやっているような工務店と営業マンがいて部長がいて、その上に専務がいるような組織でやっているような工務店、住宅展示場を持って、広告に大きな費用をかけている住宅メーカーとは、経費にかかる比重というのは全く違うのです。
経費が安いからっといって、良心的とはいえなし、きちんとした組織でそこそこの経費をとっている工務店が必ずしも、こまめに動いてくれるとも限りません。その現場に相応しい体制をとっている工務店は、どのような工務店かを見極めることが大事なのです。
それでは、どれだけの経費が必要であるかという事ですが、その工務店の売上げ、借入金、技術者の数、取締役、営業マンの数、事務員の数、自社ビルが貸ビルか、倉庫があるかないか、資材をどれだけもっているのかで経費は決ってきます。多角経営しているのは別にして、工務店は、現場からでしか利益は生まないのです。こういう状況から判断すると、現場に対する経費の割合は、住宅の場合として、考えてみると、だいたいの目安で下図のようになります。
工事金額に対する経費の目安
工事金額 | A社 | B社 | C社 | D社 |
3000万円以下 | 8~10% | 10~12% | 12~15% | 15~25% |
3000万~6000万円 | 6~8% | 8~10% | 10~12% | 12~20% |
6000万~1億円 | - | 6~8% | 8~10% | 10~15% |
A社:個人でやっている工務店 B社:小規模の工務店(社員10人以下)
C社:中規模の工務店(社員50人以下) D社:住宅メーカー
出精値引き
出精値引きについてどう考えるかですが、どれだけ値引きをするのかは、発注側と請負側との駆け引きです。発注側としては、少しでも安く発注したいと思いますし、請負側としたら少しでも高く請負したいと思っています。相手の顔色、出方を見て値引きを決めるのです。
また、工務店側も設計事務所、建築主を調べます。その設計士は、工事が始まってから設計の進め方はどうなのか。追加変更工事をきちんと裁いてくれる人なのか、建築主の仕事、性格など調べられる事は全て調べます。工務店は、持ち出してまでして請けるという事はしませんが、今後もずっと、建築主、設計事務所と仕事が続いてゆく可能性を感じたならば、儲けを度外視してでも無理して、大きく値引きをする事もあります。値引率は、その工務店がどれだけその仕事をやりたいと考えているかというのに比例するのかもしれません。
数量、単価が適正なものであったとして、あまりにも大きく値引きをする工務店には、気をつけた方がいいかと思います。そこまでして、無理にでも仕事をとりにくるというは、もしかしたら、経営状態を圧迫しているくらい他に仕事がないのかもしれません。うまく値交渉して契約できて、工事が始まったのは良かったけれど、途中で倒産したとなったら大変です。その工務店の経営状態までも把握する必要があります。